特許翻訳における機械翻訳の位置づけ
執筆:株式会社エイブス 技術翻訳スクール 校長 中国延辺大学 客員講師 疋田 正俊
最近、機械翻訳に関するさまざまな意見が見られるようになってきた。好意的であれ、批判的であれ、翻訳業界に携わっている方々が自分なりの意見をもつのは当然のことではある。
ここでは、筆者が過去に経験した米国における特許紛争(7 年間)を考慮に入れて、現在の機械翻訳がこの「特許バトル」に耐えられるか否かに焦点をあて、簡単に述べてみることにする。

機械翻訳の長所(日英、英日、日中、中日、中英、英中など)
- スピードが速い(翻訳単価が安い)
- 訳抜け(うっかりミス)が少ない
機械翻訳の短所
- 複雑な構文は訳せない
- 図面を参照しながら訳せない(単数か複数か判別できない)
- 前述の文との関連があいまい(”a” と “the” との区別)
大別すると以上である。細かな点ではまだいろいろとあるが、ここではそれを追求しない。
「特許の申請」とは、その国にのみではなく、米国・EU 等の諸外国にも申請して、申請した技術を他社に認めさせ、かつ独占的に自社の製造権利を主張するためのものである。自社が紛争で負ける特許を申請するほど、馬鹿げたものはない。
このことを考慮して上記の長所・短所を見れば結論は容易に引き出せる。

米国の特許紛争(特許裁判)では、特許請求項の表現が重要であることは論を待たないが、裁判となると “Embodiment” の内容も重要である。特に “Best Mode” を書く場合にラフな表現をしてしまうと “Fraud”(はったり)と看做されて立場がかなり悪くなってしまう。”Fraud” は米国人が最も嫌う類の中の一つである。
機械翻訳では、翻訳中のただ一つの文章のみに注力しているので前述の文を考慮した訳文にしたり、図面の技術内容を吟味して訳出するという芸当はできない。(あるいは将来的には、できるようになるやも知れないが。)まだまだ、機械翻訳が主流になるとは言い難い。
以上、機械翻訳に関して厳しい意見を一つ述べたが、翻訳業界(特に経営者)は機械翻訳の長所を活かしつつ、人間翻訳の緻密な点を機械翻訳にかぶせて完成品とすればいいのである。
これからの数年、あるいは10年は、この「かぶせ方」の競争となるであろう。コストと品質の、両面ともに。
